11. ミドルショット−シュヌルバートとアンゼルム

  シュヌルバート
  そんなに荒っぽいタイプじゃなさそうだな?

  アンゼルム
  (一団の最年少)
  シュヌルバート、君がたくましすぎるんだ、五分と五分だぜ。

カメラはトリービッヒにパン。彼は兵士が考えていることがわかっている
ようである。
少し不安げに、マイヤーに向く。

  トリービッヒ
  (茶化すように)
  大尉がここへ来ても、奴らを起立させられると思うか?

  マイヤー
  (にやりと)
  わかりません、少尉。自分は奴らにひとりづつやらせますがね

約半数の─兵士達の爆笑。シュタイナーは、ひときわ静かである。

  シュヌルバート
  平和条約にご署名を、って言うまで起きるもんかよ。

しかし、誰かが近づいてくると咳払いをし、のっそりと立ち上がり始める。

12. シュトランスキー

塹壕に近づいていく。背景では、兵士達がしぶしぶ集合しつつあるのが目に入る。
トリービッヒはシュトランスキーがやってくるとカチンと気をつけをする。

  トリービッヒ
  (笑顔の敬礼)
  大尉殿。

シュトランスキーはわずかにトリービッヒにうなづき閲兵するが、その顔に表情は
見られない。最後に──

  シュトランスキー
  誰がシュタイナー伍長だ?

シュタイナーは一歩前へ出て、だらっと気をつけをする。
シュトランスキーは彼を観察し、──失望する。

  シュトランスキー
  貴様がシュタイナー伍長か?

  シュタイナー
  (まるで無頓着に)
  はっ。
  (間)
  自分がシュタイナー伍長であります。

  シュトランスキー
  想像していた姿とは──貴様はなんとなく違うな。

  シュタイナー
  (無関心な顔)
  大尉を失望させてしまい申し訳ありません。

背景では、兵士数人がクスクスと笑ったが、トリービッヒが一べつすると
すぐに収まった。シュトランスキーはふたたびシュタイナーを見る。

  シュトランスキー
  (大声で)
  貴様は曹長に昇進だ、昇進は即時発効である。

シュタイナーの顔を注視する。あたかも木に向かって話しているようだ。
シュタイナーの顔に驚きがない。ほんのわずか曲げた腕が聞いていることを
示しているだけだ。

  シュトランスキー
  聞いているのか、伍長──シュタイナー曹長

  シュタイナー
  はっ

  シュトランスキー
  昇進したのにあまり表情に出ないようだな。

  シュタイナー
  はっ。

若いアンゼルムが思わずクスクスと笑う。シュトランスキーがにらむと
静かになる。

  シュトランスキー
  (マイヤーとトリービッヒ両少尉に)
  来い、──貴様もだ、曹長。

トーチカへの階段を降り始め、マイヤー、トリービッヒ、シュタイナー
が続く。

13. 省略

14. シュトランスキーのトーチカ − シュトランスキー

が、テーブル向うに座る。シュタイナー、マイヤー、トリービッヒは彼の
少し横にいてシュトランスキーに向かって立っており、シュトランスキーは
上等なタバコケースを取り出した。
それをマイヤーに差し出し、マイヤーはタバコを1本取る。

  マイヤー
  ありがとうございます、大尉。

シュトランスキーはシュタイナーにもタバコを勧める。

  シュタイナー
  結構であります。

  シュトランスキー
  (タバコを点けながら)
  済んだばかりなのに、タバコがいらんのか?

  シュタイナー
  今現在は結構であります。

  シュトランスキー
  報告を聞こう。

シュタイナーはポケットの中に手をいれ、テーブル上にしわくちゃの書類の
束を置く。シュトランスキーは驚いて彼を見る。

  シュトランスキー
  報告要旨を聞きたい。

  シュタイナー
  ロシア軍多数。大砲多数。
  (にやりと)
  まもなく敵の音が聞こえてくるはずです。

  シュトランスキー
  小隊はどうだ──損害は?

  シュタイナー
  2名死亡。1人不明。

  シュトランスキー
  2名死亡か。状況は?

  シュタイナー
  (冷淡に)
  小銃弾です。

  シュトランスキー
  (突然怒りだして)
  そんなことはわかっている。行方不明の兵士だ──
  そいつを探したのか、シュタイナー?

  シュタイナー
  (せっかちに肩をすくめて)
  時間がなくて見失いました。1人の兵士のために小隊全部の安全を
  危険にさらしたら無責任であったでしょう。

  シュトランスキー
  この場合、行方不明者を出すべきではなかった。

  シュタイナー
  (無表情に)
  申し訳ありません。次はうまくやります。

  シュトランスキー
  (少したってからにやりと)
  貴様は、自分をなんか過大評価しているようだな、曹長。

  シュタイナー
  (眼は沈むが声は変わりなく)
  あの時は、甘いことなどなにもありませんでした。

2人は互いを見る。そしてシュトランスキーは、シュタイナーの手に
持っているPPSh短機関銃に眼を落とす。

  シュトランスキー
  ドイツの銃ではないな。

  シュタイナー
  はっ。報告に全てあります。ロシア軍1個小隊を奇襲──
  逃走した際、敵は銃を残していきました。

  シュトランスキー
  ああ、戦利品か。よろしい。自分の銃はどこだ?

  シュタイナー
  2つは持てませんので、母国製は残しました。

  シュトランスキー
  なんと! 自分の銃を置いてロシア製とはな!

  シュタイナー
  (静かに)
  はっ。我々の銃はロシア軍にいっております。

  シュトランスキー
  腑に落ちん。我が軍兵器の優秀さはロシア軍のそれをはるかに
  凌駕していることを知っているはずだし──

そこで止めたのはシュタイナーが頭を横に振ったからだ。
シュトランスキーは眉を吊り上げる。

  シュトランスキー
  お願いできないものかな?

  シュタイナー
  …ロシア軍の銃は優れています。

  シュトランスキー
  (鋭く)
  そんなばかな、いいかげんな話だ。無数の犠牲の上に手に持たせて
  くれた祖国の優秀装備をありがたく思わないわけはなかろう。

  シュタイナー
  (こみ上げてくるおかしさを抑えきれずに)
  手にするものを問われたことは一度もありませんでした。

マイヤーは上を見上げる。シュトランスキーは深いため息をつく。

  マイヤー
  (せっかちに)
  シュトランスキー大尉殿、シュタイナー曹長には睡眠がかなり必要です。
  間違いなく曹長──

シュトランスキーは後ろを向いて退出しろというしぐさで話をさえぎる。
マイヤーはシュタイナーが自分に続くように身振りする。

15. トーチカの外−兵士

兵士達は、シュタイナーとマイヤーを見ると飛び上がって起立する。

  マイヤー
  注意しろ。
  あいつに毛嫌いされたぞ。

  シュタイナー
  (しかめっ面で)
  たいへんまずかったです。冷静になれません。

  マイヤー
  やっかいなことになりかねん。

  シュタイナー
  (簡潔に)
  多くの大隊長となんとかやってきました。
  シュトランスキー大尉ともやっていきます。

16. トーチカ内−シュトランスキーとトリービッヒ

机にて、手に持ったコーヒーカップをすすっている。

  シュトランスキー
  くそっ。このコーヒーは冷めてる。

  トリービッヒ
  申し訳ありません。少し前に暖めたのですが──

近くに着弾したような大爆発がある。

近くへの着弾がトーチカを揺らした。トリービッヒ少尉はひっくり返った
テーブルを戻している。
シュトランスキー大尉は、しかめっ面で、制服のほこりを払い落とす。

  トリービッヒ
  (書類をいくつかテーブルに置く;弱々しい笑顔で)
  余興には近づきすぎ、と言うべきですな、大尉殿。

  シュトランスキー
  まだどれぐらいサインがいるのだ?

  トリービッヒ
  恐れ入ります、ほんの少しです。

  シュトランスキー
  (席に着き、不機嫌そうに)
  くだらんことをさせる。

書類に目を通して署名する。トリービッヒが大尉の温和な目を観察すると、
顔にはこわばった笑みが残っている。シュトランスキーが署名を片付けると、
顔を上げ、空気の匂いをかぐと、かなりおかしな感じでトリービッヒを見る。

  シュトランスキー
  香水の匂いがしないか?

  トリービッヒ
  あ、いいえ、大尉──
  (弁解がましく)
  髭剃りローションをしたところですので。
  その、身だしなみです。

  シュトランスキー
  そうか。

じっと見つめるとトリービッヒの笑顔が詮索であせてくる。
すると突然シュトランスキーの態度が変わる。椅子に向かうそぶりをし、
声に誠意を含めようとする。

  シュトランスキー
  (タバコをトリービッヒに差し出しながら)
  本大隊に来るまではどこに駐屯していたのかね?

  トリービッヒ
  (柔らかい声で)
  南フランス──ボルドーです。

  シュトランスキー
  ほほー! それなら転属になったことは追い出されたのに
  違いないな、ええ?
  (普通の声で)
  いったいなぜ転属になったんだ?

  トリービッヒ
  (少し間をおいて)
  転属を志願しました。

  シュトランスキー
  (疑うように)
  それは興味深い。

シュトランスキーが彼をじっと見つめるとトリービッヒの顔に不安の
色が浮かんでくる。
すると再びシュトランスキーの表情が突然変わる。
再び親しげになり──トリービッヒは大いに安堵する。

  トリービッヒ
  浜に面した邸宅に住んでいました、いつでも、夜も昼でも泳げます。
  言葉では表せません──海、椰子の木、海浜、人々、何もかも──

記憶に圧倒されて、止める。シュトランスキーは、トリービッヒが感情を
持ったツバメに見えて驚く。

  シュトランスキー
  (知ったかぶりの微笑み;ウィンク)
  つまり、女、だな

  トリービッヒ
  (頭を上げ)
  意味がよくわかりませんが

  シュトランスキー
  女、と言ったんだ。
  つまり、──人々と言った──もちろん女のことだろ?

  トリービッヒ
  (肩をすくめて)
  そんなことはないです。自分は──その──
  (突然とまどいを見せて)
  女性について考える時間はあまりありませんでした。

  シュトランスキー
  (さりげなく)
  君は兵士が好きか?

  トリービッヒ
  (語気つよく)
  もちろんであります。

  シュトランスキー
  (見下したようにうなづいて)
  それを聞いてうれしいよ。

  トリービッヒ
  共に違う世界に生きているようなものです。

  ロウソクが燃え尽きる。シュトランスキーは起き上がり別のものを灯す。

  シュトランスキー
  本当にまったく違う世界だ。危険な世界と男の世界、女のいない世界。
  (笑い、噴き出し、思いに耽る)
  女無しでも男はやってける。言いたいのはだ、男の本来の定めというのは
  子育てではなく、自由になって支配と闘争、言い換えれば人類の生存を導く
  ……女は単なる楽しみで、不必要なデザートなのだ。
  (たばこの煙の輪を吹き出し、トリービッヒを見る)
  それとも否定するかね?

トリービッヒはシュトランスキーをいくらか戸惑いながら見る。
シュトランスキーは何を言っているのか。するとシュトランスキーは手を握り締める。
指をからみあわせ、親指を思わしげにみつめる。

  トリービッヒ
  否定など考えておりません。
  (すこし躊躇してから)
  必要とあらば、女性がいなくても生きていけると考えております。

  シュトランスキー
  それを聞いてうれしいよ。

たばこの燃えている先を見つめる;そして突如見上げる。

  シュトランスキー
  言い換えると、女の仲間より男の仲間が好きなのか?

  トリービッヒ
  (今度はおおいにとまどって)
  状況によります。

  シュトランスキー
  本当か?

シュトランスキーは微笑む。トリービッヒは答えない。

  シュトランスキー
  君のためを思って、君の考えを言葉にしてあげよう。
  (にやにやと)
  君は、いつどんなときでも女の世界より男の世界が好きなのだ。

言葉がトーチカの静寂のなかに漂う。トリービッヒは殻にこもるカタツムリ
のように退ぞく。恐れ、同意、希望をないまぜにしてシュトランスキーの顔を
見つめるが、その顔には親しみの同意しか映っていない。
そして、沈黙が同意と受けられるのを恐れて、トリービッヒはつぶやく……

  トリービッヒ
  よくわかりませんが……

  シュトランスキー
  (確信の笑みで)
  かくれんぼは止めにしよう、トリービッヒ。
  いろんな人がいても私に戦線を張る必要は無い。
  私の言ったことは本当だな? 頼むから、はいと言ってくれ。

  トリービッヒ
  (もう止めにしたいという雰囲気の、か細い声で)
  はい。

シュトランスキーは飛びあがり、トリービッヒの真前に。

  シュトランスキー
  大声で! はいと言った。はいと言ったな? 私の目の前でうそはつくなよ。

シュトランスキーのかっとなった顔の光景が、自分からほんの数インチになり、
恐ろしさにトリービッヒは目を閉じる。シュトランスキーが彼を揺さぶる。

  トリービッヒ
  (弱々しく)
  はい。

  シュトランスキー
  (トリービッヒを放し、後ろへ下がる)
  起立!

震えながら、トリービッヒは従う。ゆっくりと、シュトランスキーは
彼の頭のてっぺんからつまさきまで見る。

  シュトランスキー
  これについては保証しよう! そんなことをしようと知ったら、
  絞首刑にしてやる、覚えておけ! 兵士全員の前でな!
  わかってるか? 聞いているのか?

トリービッヒは答えられない。

  シュトランスキー
  さあ、ここから出ていって、今から24時間私の前に現れるな。
  胃が痛くなる。

トリービッヒは動けずに立っている。

  シュトランスキー
  出ていけ!

瞬間、トリービッヒはシュトランスキーのゆがんだ顔を見る。
そして向きを変え、戸口でつまづき、消え去る。シュトランスキーは少しの間、
同じところにとどまり、そしてたばこをまさぐって、微笑む。
彼は、自分が居た完璧な軍隊の姿、男性像に満足している。

次へディゾルブ:

シュタイナーが歩いている ─ 壕にいる兵が見つめる中、
しばらく空を見上げた後でブラントのトーチカ内へ行く。