[解説]
イタリア映画界注目の新進監督ジロ・ポンテコルヴォの第二作「ゼロ地帯」は、若い女流作家エディット・ブリュックが書いたナチ強制収容所の恐怖と戦慄の自伝小説“かく君を愛する者”にもとづいて映画化した国際的規模の大作で、製作開始前から多くの話題と関心を呼んだ。
すなわち「女優志顧」いらい二年ぶりに映画出演するアメリカの若き演技派女優スーザン・ストラスパーグ、「危険な曲り角」「恋人たちの森」のフランス男優ローラン・テルジエフ、「二十四時間の情事」のフランス女優エマニュエル・リプァら国際スターの主演や、ユーゴスラヴィア政府の援助によって首都ベルグラード近郊に大オーブンセットを組み、第二次大戦下のナチ強制収容所を再現し、おびただしい各国のエキストラを使って、かつてない鮮烈な迫力と偉大なヒューマニズムの感動を盛り上げたことなどである。ロケは一九六〇年三月十四日から開始され、六月未まで三ヵ月半の長期間を要した。
この映画の特徴は、殆んど記録映画ともいえるようなタッチで、強制収容所内の凄惨きわまる生活とナチスの狂気の残虐行為を刻明に描きながら、急転直下、ドラマティックな展開を示して、一人のかよわいユダヤ娘のたどった悲劇を、異常な迫力をもって描ききっていることである。それゆえに、この「ゼロ地帯」から受けるショッキングな感銘と大いなる感動は、これまでのどの映画にも見られなかった強烈無比のものといえる。
これにこたえる各国俳優陣の迫真の演技、特に「アンネの日記」の主役として長期間舞台できたえあげたスーザン・ストラスパーグの名演技は、見る者に忘れえぬ印象を焼きつける。彼女はこの演技によって一九六一年一月十八日、マル・デル・ブラータ(アルゼンチン)国際映画祭の“最優秀主演女優賞”を獲得した。
また「鉄道員」「刑事」などで有名なイタリアの名作曲家カルロ・ルスティケリの哀愁あふれる音楽も、主人公ニコールの心情をうたいあげて美しい余韻を残す。そして最近「ゼロ地帯」は、第三十三回(一九六〇年度)アカデミー賞外国映画部門の受賞候補作品として選ばれるに至った。 |