[解説]
チャップリン映画といえば世界中の人々が笑いのシンボルとして愛してきた映画である。だがその中でもこの「チャップリンの独裁者」は人々が特に注目した作品である。
それはこの映画が「殺人狂時代」「モダン・タイムス」と共に彼の三大名作と謳われたことと、それまでトーキー嫌いで通していた彼が初めて完全なトーキーを使用したということによるのである。またこの映画が、独裁政治へ痛烈な批判を投げると共に独裁者の小心を笑いのうちに描いたことも世界中な注目させる大きな原因となったのである。この映画の製作を発表した一九三七年は、ヒットラー、ムッソリーニが世界征覇を夢みて独裁政治を欲しいままにしていた時代である。それゆえに、この映画は製作当時ドイツ、イタリアからアメリカ政府を通して強烈な製作中止の申し入れを受けており、日本でもまた戦時中は輸入を禁止されていたのである。
しかし映画は独裁者への痛烈な批判を投げながらも決して彼本来の笑いというものは少しも損っておらず、これまで人々におなじみのチャップリンスタイルで楽しませてくれ、もう一方では彼は独裁者となって数々のギャグでもって独裁者の愚かしさを笑いの中にあばいて見せてもくれる。彼の全ての作品の中で、芸術的にも、また彼が映画製作者として時の権力者に対して絶体にゆずらなかったという見識の意味からも最高の作品といえよう。それだけに最近イタリアでも封切られたが劇場は長蛇の列で大変な盛況を見た。また今年の八月二九日にはベニス映画祭にも招待作品として出品され絶讃を受けたのである。
製作・脚本・監督・主演とこの映画の殆どが彼一人によってなされている。トメニア国の独裁者、及びユダヤ人の床屋とチャップリンは二役を演じている。彼の相手役としては「モダン・タイムス」でチャップリンに抜擢され一躍世界中に名を知られたポーレット・ゴダードが床屋の恋人となっている。またムッソリーニを諷刺した独裁者ナパロニにはハリウッドの特異な劇役者として有名な「八十日間世界一周」及び「ねずみの競走」のジャック・オーキーらが出演してチャップリン映画の風格を高めている。 |