[解説]
『遥かなる帰郷』は、アウシュヴィッツから奇跡的に生還したプリーモ・レーヴィが、故郷イタリアヘと戻るまでの8カ月間の旅を書き記した『休戦』の映画化である。この原作は、『夜と霧』『アンネの日記』と並ぶ記録文学のベストセラーとなり、1987年、映画化が企画された時、レーヴィは“人生の暗黒の部分に一筋の光を当てられた”と喜んだが、1週間後に自殺。このことによって1度は映画化を断念した、『シシリーの黒い霧』『予告された殺人の記録』の巨匠フランチェスコ・ロージが、渾身の思いを込めて完成させた魂の叙事詩である。
第二次世界大戦直後連合軍によってアウシュヴィッッから解放された主人公プリーモ・レーヴィは、ポーランド、ロシア、ルーマニア、ハンガリー、オーストリアを旅して帰郷するまでの8カ月間、急にもたらされた自由に喜びつつも戸惑い、さまざまな階級の人々と渾然一体となり、世界を、生を再発見していく。
冷やかなまでに商売に徹したギリシャ人の一匹狼モルト。口が達者で世渡り上手だが、どこか憎めないユダヤ人チェーザレ。ソ連軍キャンプの中でしたたかに生きる美しい看護婦ガリーナ、ヴェネツィア・ゲットー唯一の生き残りダニエーレ。繊細な音楽家ウンヴェルドルベン、天才的スリのフェラーリ。彼らとの交流を通して、プリーモは強制収容所で打ち砕かれた人間性をようやく取り戻していく。プリーモの鋭い視線は、あらゆる権利を奪われた人たちの中にも輝く、人間としての尊厳を見い出していくのである。彼は強制収容所の悲劇に満ちた記憶に縛られているが、この旅と冒険によって、愛、友情、そして自分自身を再発見し、生きることの素晴らしさと世界の美しさに気づき始める。その姿は、戦争や災害によって深く傷を受けた者が、どのように心を癒していけるかという現代の大きなテーマをも問いかけ、深い感動を呼ぷ。本件は、戦争とそれに翻弄される人々を的確に、時にユーモラスに描いた現代のオデッセーである。
フランチェスコ・ロージ監督がプリーモ・レーヴィの作品の映画化を決意したのは、1989年、ベルリンの壁崩壊を目の当たりにした時だった。第二次世界大戦で人間性を引き裂かれたプリーモ・レーヴィが、深い絶望を体験しながらも希望を見つけていった姿を、今こそ世界に伝えるべきだと思い立ったのだ。主人公プリーモ・レーヴィに扮するのは、『バートン・フィンク』のジョン・タトゥーロ、ギリシャ人モルトには、『ビフォア・ザ・レイン』のラーデ・シェルベジヤなど錚々たるヨーロッパの名優たちが顔をそろえた。さらに、『ベニスに死す』の撮影監督パスカリーノ・デ・サンティス、『イル・ポスティーノ』の音楽監督ルイス・バカロフ、『愛のめぐりあい』の編集監督ルッジェーロ・マストロヤンニなど、最高の
スタッフがロージ監督の強い意志の元に結集し、ついに本件は完成した。 |