[解説]
イギリスが生んだ不世出の巨匠デビッド・リーン監督が、「ドクトル・ジバゴ」
以来4年半ぶりで世に問う注目の映画である。
第1次世界大戦中、イギリスからの独立運動が、武力蜂起にまで高まろうとしているアイルランドの、首都ダブリンに近い海辺の一寒村が舞台である。
この反英の世相の中で、夫を敬愛しながらも、若いイギリスの守備隊長を熱愛せずにはいられない、女の業とも言うべき人妻の不倫の恋を描いて、リーン監督が、「逢びき」以来はじめて、ひたすら愛の問題に打ち込んだ、彼の代表作の1つに数えられる傑作である。
脚本は、「ドクトル・ジバゴ」(アカデミー脚色賞)や「アラビアのロレンス」などのロバート・ボルトのオリジナルで、リーン監督と絶えず打ち合わせながら、約1年がかりで完成された。
撮影は、「ドクトル・ジバゴ」「アラビアのロレンス」(アカデミー撮影賞)などの名手フレディー・ヤングの監督の下、アイルランドの南西部、大西洋に突出したディングル岬で行われた。
1968年の秋、デビッド・リーンは、ロケ・ハンでディングル岬の先端に立ち、歴史の進歩の跡が少しも感じられない荒涼たる風景を見て、即座に絶好のロケ地と確信した。その時から約半年、この荒荒しい不毛の海岸に、完全なアイルランドの村が建設され、69年の2月下旬に撮影に入った。
作曲には「ドクトル・ジバゴ」「アラビアのロレンス」でリーン監督に協力したモーリス・ジャールが当り、「イグアナの夜」のスティーブン・グライムズがプロダクション・デザインを、ロイ・ウォーカーが美術監督をつとめた。
衣装は「欲望」「アルフレッド大王」のジョスリン・リッカーズのデザイン。編集のノーマン・サベジは「ドクトル・ジバゴ」「アラビアのロレンス」でも手腕をふるった。
尚第2班では、「潜水艦ベターソン」「怒りの海」などのチャールズ・フレンドが監督を、「星空」のボッブ・ヒュークが撮影を担当した。
製作者は「ロミオとジュリエット」のアンソニー・ハブロック・アラン。彼は、かつてリーン監督らと共にシネ・ギルド・プロを作り、「逢びき」「大いなる遺産」をはじめ、同監督の初期の名作の数々を生んだ有能な人である。この映画は、彼のファラウェイ・プロが、MGMのために作った、スーパー・パナビジョン、70ミリ、メトロカラー、1970年度作品である。 |