[解説]
鮮血が画面をおおう殺戮シーンのすさまじさでカンヌ映画祭を騒然とさせグランプリまでかっさらってしまった「タクシー・ドライバー」、日本の高倉健に一匹狼の暗い情念の爆発を演じさせて世界の目をみはらせた「ザ・ヤクザ」映画史に残る二つの異色作のシナリオを書いたポール・シュレイダーが、あの二作では描きつくせなかった世界をこの一作にたたきこんで、アメリカの観客にまたしても賛否の論議を呼んだのが、この「ローリング・サンダー」である。
ベトナムに戦火が消えてすでに五年目。地獄を見て戦場から帰ってきた“英雄”たちの中には、いまだに平和な日常に拒絶反応しか示せない者が数多く、無益だった戦争の後遺症が今ようやくアメリカ社会に病根の深い傷口をむき出し始めている。
このドラマの主人公の空軍少佐もそんな英雄たちの一人。8年に及ぶ長い捕虜生活の間に、ベトコンの拷問を耐え抜くため人間的感情はすべて圧殺してしまった。その彼が帰国をねぎらって贈られた大金のため、ならず者たちに妻子を殺され、右腕をもぎとられる。
しかしもはや死んでいる心には正義のための憤りもなく、復讐への情熱もなく、ただ血しぷきの中に人を殺すことの充実感だけが、生きながらえている命の確実な手ごたえとなって、警察の力をいっさい拒絶した皆殺し作戦へと、彼を駆り立てていく。
凶器は刃物のようにとぎすました鋼鉄の義手の指先と、銃身を短く切りおとした愛用のショットガン。こうして「タクシー・ドライバー」や「ザ・ヤクザ」をはるかに超える殺戮の美学が大スクリーンをとめどない流血で埋めつくすことになる。
空軍少佐に扮しているのは「がんばれ!ベアーズ特訓中」や「マランソマン」「ファミリー・プロット」などでアメリカの現代に深く斬りこんだ演技をみせているウイリアム・ディベイン。その若い戦友になるのは「ジャクソン・ジェイル」「ベッツィー」「アイス」と目下急速に売り出してきている新人トミー・リー・ジョーンズ。虐殺の旅に同行して、明日知れぬ愛を主人公とかわす酒場女に扮するのは「新・動く標的」「電撃フリント・アタック作戦」などの野性派リンダ・ヘインズ。
監督のジョン・フリンは「軍曹」「愛と死のエルサレム」「組織」など、寡作ながらも問題意識をはらむ作品ばかり発表してきた異才だが、第一作「軍曹」ですでに、平時にいて戦争を忘れぬ男を描いていることを思えば、それはまさしくズバリ適材の起用と言える。
脚本に協力したのはヘイウッド・グールド、撮影はジョーダン・クローンウェス、音楽はバリー・ディボルゾン。アメリカ映画に新しい視野を切りひらき続ける俊英ばかりだ。
製作はノーマン・T・ハーマン。「ワイルド・エンジェル」「イージー・ライダー」「ファイブ・イージー・ピーセス」など、過激な発言で常に社会に映画の枠を越えた影響力を発揮しているアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズの最新の意欲作である。 |