[解説]
人間の心にしみじみ訴えてくる映画というのは数少ないものだが、この作品は幾度となく戦争を経験してきた人間にとって、深い共感をもって迎えられるだろうと思う。
ビットリオ・デ・シーカ監督が10年という年月をかけて準備し、構想を練ったというのもひとえに、彼が自分の仕事の総決算として、あらゆる人間、あらゆる階層の人たちに訴えかけられる作品を創りたいという素朴な熱意があったからである。
デ・シーカと製作のカルロ・ポンティ、総指揮のジョゼフ・E・レビンの呼吸は「ひまわり」の製作でぴったりとあい、最大の難関、ソ連国内のロケという問題もみごとに解決することができた。
ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニも、デ・シーカとのつきあいは長い。いってみれば、同族みたいなものである。
こういう気心知れたどうしでの撮影は快調に進んだ。
ソ連国内を訪れたロケ隊一行は各地で大歓迎をうけ、とくに人気最高のローレンは手に持ちきれないほどの花をもらってうれしい悲鳴をあげる始末。
花をあげるというのはソ連の歓迎の風習なのである。
とくに特筆されるのはリュドミラ・サベリーエワの参加だろう。
清楚な美しさで「戦争と平和」のナターシャで日本にも忘れ得ない印象をのこしたサベリーエワはその後も着実に女優として成長をとげ、いまや押しも押されぬソ連の第一線女優である。
この作品で国際女優の仲間入りをした彼女にすでにいくつかの話が持ちこまれている。
善意の庶民が、思いもかけない戦争のために別離をよぎなくされ、また再会し、苦しむというテーマは、ローレン、マストロヤンニ、サベリーエワという三大スターのすばらしい演技でみごとに結晶されているといっていい。
デ・シーカは完成後の記者会見でこういっている。「ひとりぼっちで夫を探しに長い旅に立つという話は、ユリシーズの流浪の旅に似ているでしょう」「彼女の一歩一歩がそのまま彼女の、いや人間の人生そのものなのです」
「ひまわり」はローレンにとっては実に2年ぶりの作品。2年のブランクは愛児ポンティJ rの出産も含まれているが、ポンティJ rもワンカット出演しているのも話題です。
なお、この作品で、彼女は、1970年度、イタリアのオスカー賞といわれる「デビット・オブ・ダンテロ」賞のイタリア最優秀女優賞を受賞、マストロヤンニはまた同じく1970年度のカンヌ映画祭で最優秀男優賞を獲得している。
さいごに忘れてはならないのは、この作品の音楽。「ティファニーで朝食を」 (ムーンリバー)や「酒とバラの日々」でアカデミー音楽賞を受賞し、今はなきビクター・ヤング/アルフレッド・ニューマンのあと映画音楽には定評のあるヘンリー・マンシーニが担当している。
哀切きわまりない音楽は各局のヒット・パレードの上位を占めた。 |