[解説]
第二次世界大戦に兵器製造で勇名を轟かせたドイツの巨大な鉄鋼王国を舞台に、ナチスの勢力を二分した突撃隊と親衛隊との血みどろの殺戮、世界支配をめざす第三帝国の興隆、渦まく陰謀と野心の犠牲となって崩壊してゆく製鉄会社一族の運命を雄壮に描破した画期的なスペクタクル大作。
ナチスの国会焼打ち事件、鉄鋼王暗殺、権力をめぐる一族の血の闘争、ならず者やホモの集団といわれたナチス突撃隊員の乱痴気パーティ、婦女子集団暴行、突撃隊員をヒットラー総統親衛隊が急襲し機関銃で虐殺した悪名高き“血の粛清”事件、ベルリン大学前広場における反ナチス思想書物の焚書事件、鉄鋼王の変質的な孫の少女暴行と母親強姦、麻薬常習、ナチス強制収容所の恐怖、死のワルツが奏でる醜怪な結婚式……歴史的事件を縫って人間のドラマティックな葛藤が浮きぽりにされ、血で汚された狂瀾怒涛の世界がつざつぎとくりひろげられる堂々二時間三十四分のテクニカラー巨篇である。
これまでに何度となく各国の監督が競って映画化しようと企画にあがったが、そのあまりにも破格な題材と彪大なスケールのため実現不可能とされていたもので、 「異邦人」の巨匠ルキノ・ビスコンティ監督にしてはじめて成し遂げられたのである。そのためオリジナル脚本は、シェイクスピアの「マクベス」、ゲルマン民族に伝わるニーベルンゲン物語、ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指環」とくに第四部の「神々のたそがれ」、トーマス・マンの作品はじめ、さまざまな物語にヒントを得て、 「赤いテント」のニコラ・バダルッコと「若者のすべて」「山猫」のエンリコ・メディオリ、それにビスコンティ監督の三人が共同で執筆した。
製作は「悪魔のようなあなた」のアルフレッド・レビーと「悪魔をやっつけろ」「裸足の伯爵夫人」のエバー・ハギャッグ。一九五七年「白夜」いらいビスコンティと組んでいるピエトロ・ノタリアンニが製作総指揮にあたっている。
出演者も英・独・伊・仏・スウェーデンから国際的なトップ・スターを集めて豪華をきわめている。邪魔者をつざつぎに殺害し鉄鋼王国の支配権を握る〈現代のマクベス〉を演ずるのはイギリスのダーク・ボガード(アレキサンドリア物語)、その愛人にスウェーデンの代表的女優イングリッド・チューリン(夜のたわむれ)、ナチス党員で一族を操る影の人物にドイツ映画・演劇界の名優ヘルムート・グリーム、母親強姦、少女暴行の変質者で母とその情夫に毒を与え死に追いやる鉄鋼王国の若き子孫にビスコンティが発見した驚異の新人ヘルムート・バーガー、醜悪な家族に絶望しナチスに入党してしまう純粋な青年にフランス若手人気俳優ルノー・ベルレー(個人教授)、策略に踊らされる自由主義者にイタリアの名優ウンベルト・オルシーニ(ジブラルタルの追想)、ともにおなじ悲運をたどる鉄鋼王とその甥にそれぞれドイツ演劇界の重鎮アルブレヒト・ショーンハルスとルネ・コルデホフ、娘二人と強制収容所に送還される悲劇の女性にイギリスのシャーロット・ランプリング(ジョージー・ガール)、変質者の求めに応じる娼婦にブラジル生れの異色女優フロリンダ・ボルカン(夜の刑事)。いずれも最高の演技を誇る顔ぶればかりで白熱のドラマを展開している。
スタッフもこれほどヨーロッパ第一級のベテランがいっしょに仕事をすることもめずらしく、撮影は「天使の詩」「さらば恋の日」のアルマンド・ナヌンツィと「ロミオとジュリエット」でアカデミー賞受賞のパスカーレ・デ・サンティスの二人、音楽はアカデミー賞受賞の「アラビアのロレンス」はじめ「ドクトル・ジバゴ」 「グラン・プリ」など数多くの大作を手がけているフランスの若き作曲家モーリス・ジャール、美術は「天地創造」のパスカーレ・ロマノ、衣裳デザインは「サテリコン」のピエロ・トージ、編集は人気俳優マルチェロ・マストロヤンニの兄弟で「恋人たちのいる場所」のルッジェーロ・マストロヤンニである。
主なシーンはオーストリアの町ウンテラッヒ・アム・アッテルゼーとドイツの町エッセンおよびデュッセルドルフにロケして撮影された。さらにローマおよび近郊の工業都市テルニで撮影完了、室内シーンはチネチッタ・スタジオを使用している。
ナチス親衛隊銃殺班の残忍な大量虐殺に見られる凄まじいアクション描写、母親を強姦する嗜虐的な息子の赤裸々なシーンで描出される異常なエロチシズム……思わず目をおおう衝撃場面のなかに映画がもつ娯楽性を最大限に盛りこみ、重厚な力強い演出で見る者を圧迫する、まさにこれはあらゆる点で従来の映画とはけたちがいのスケールを持った巨匠ビスコンティ監督の集大成的・記念碑的超大作である。 |