メル・ブルックスの大脱走

昭和59年5月19日発行
発行所:東宝 出版・商品販促室
発行権者:20世紀フォックス極東映画会社
定価300円
A4版24P


[解説]

「ブレージングサドル」「ヤング・フランケンシュタイン」などスーパー・ヒット作を製作・監督・主演してきた喜劇の天才メル・ブルックスが、初めて監督を離れて役者として専念し、新生面を開拓した傑作コメディである。
これまではパロディが笑いの中心だったブルックスだが、今回は舞台役者からヒットラー、ナチに協力するポーランドの教授などに変装し、ドラマティックでサスペンスにあふれたスリリングな爆笑の名演技を展開する。
物語の背景となるのはヒットラーがポーランドに侵攻を開始した時代一一ボードビルからシェークスピア劇までを売りものに、愛妻で女優のアンナと共に人気絶頂のブロンスキー劇団の花形スターがブルックスの役で、一座がナチのユダヤ人狩りと追求を逃れて国外脱出を計る一大サスペンス・コメディである。あの手この手の逆転につぐ逆転、変装と奇襲大作戦で見せる抱腹絶倒の手に汗にぎるスリルと笑い。ブルックスの最高作とマスコミは絶賛し、全米で大ヒットになっている。
ことに目を見はらせるのは、女優アンナを演じるアン・バンクロフトの洗練された美しさと信じられないようなコメディエンヌぶりである。「奇跡の人」でアカデミー主演女優賞に輝き、「卒業」「愛と喝采の日々」「エレファント・マン」などシリアス・ドラマで名女優として不動の地位を築いた彼女が、軽妙酒脱、しかも歌って踊って笑わせて、これぞ役者と絶賛され、ゴールデン・グローブ主演女優賞の候補に選ばれた。私生活ではブルックス夫人で、「サイレント・ムービー」にチョイ役で特別出演したことがあるが、メルとの本格的共演は今回が初めてである。
アンナが夫の目を盗んで浮気するハンサムなポーランド空軍中尉に、「アニマルハウス」「1941」のティム・マティスン。ナチに協力しているポーランドの教授に「シラノ・ド・ベルジュラック」でアカデミー主演男優賞に輝き、「赤い風船」「さすらいの航海」などの名優ホセ・ファーラー。「スティング」「クワイヤ・ボーイズ」「告白」などをへて、「トッツィー」で女装したダスティン・ホフマンを恋する名演技が絶賛されたチャールズ・ターニングが好色漢のナチ将校に扮する。「トッツィー」でやはりホフマンを追っかける中年のテレビ俳優を演じたジョージ・ケインズが劇団のラビッチ役で登場。
そのほか「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のクリストファー・ロイド、「この生命誰のもの」などのジョージ・ウィナー、「新サイコ」「珍説世界史PART1」に出演したジャック・ライリー、「評決」などのルイス・スタドレンなどのベテランが脇をかためる。さらにホモでアンナの付き人をしているサ一シャ役でジェームス・ハークが映画デビューし笑いをふりまき、千両役者の一大競演が圧巻である。
映画の原作となったのは、42年にエルンスト・ルビッチ監督が作った同名の作品(日本では劇場未公開だが、テレビで「お芝居とスパイ騒動」として放映されたことがある)で、卜一マス・ミーハンとロニー・グラハムが脚色。
ブルックスが白羽の矢をたてて演出をまかせたアラン・ジョンソンは、これが第1回作品だが、ブルックスの期待にこたえてみごとな力量を発揮。ダンサーから振付師になり、「ブレージングサドル」「ヤング・フランケンシュタイン」などでもブルックスの陰の協力者として実績を残している。
製作総指揮のハワード・ジェフリーは、ベット・ミドラー主演「ジンクス」(日本未公開)などのプロデューサー。音楽のジョン・モリスは「ブレージングサドル」「エレファント・マン」でアカデミー作曲賞にノミネートされ、ブルックスの全作品を手がけている。今回もブルックス作詞・作曲による主題歌が2曲挿入されている。撮影のジェラルド・ハーシュフェルドは「ヤング・フランケンシュタイン」「さよならコロンバス」などの名手。美術デザイナーのテリー・マーシュは「ドクトル・ジバゴ」「オリバー!」でアカデミー美術賞を2度受賞し「遠すぎた橋」「わが生命つきるとも」などでも最高の美術を生み出した人。衣裳のアルバート・ウォルスキーも「オール・ザット・ジャズ」でアカデミー賞を受賞し、「ソフィーの選択」「愛と喝采の日々」「結婚しない女」などのエレガントな衣裳デザインは、いつも話題を呼んでいるが、今回も40年代のムードをみことにスクリーンに出し、最高のスタッフが結集されている。


[プロダクション・ノート]

メル・ブルックスは語る

「この映画にリメイクのレッテルを貼られるのはとても嫌だ。古典的な物語をもう一度映画にするのはリメイクではないと思う。ルビッチの作品は、時間を越えている。舞台でジョン・バリモアが「ハムレット」をやり、その後、オリビエが、さらにリチャード・バートンがやっても、誰も「ハムレット」のリメイクとは言わない。それと同じことを私は映画でやったのだ。
これまでの私の作品はアナーキーな笑いがメインだったが、今回は現実に根ざしたドラマティックな世界だ。ドラマとコメディの融合という新しい分野だけに、神経をすりへらす監督の分野をジョンソンにあずけて演技に全精力をそそぎこんだ。コメディのむつかしさは、一瞬のタイミングを必要とするところだ。ドラマは俳優としての私には比較的なじみがなかった。だがコメディと同じタイミングがドラマにも適用されるんだ。役者に専念して初めて、この映画で両方のタイミングがうまくつかめたと思う。ジョンソンの演出は、みごとにバランスをつかみ出しているのに感心した。コメディ演技でも、シリアス演技でも中核に人間の誠実さがなければ効を奏さないことを、あらためてこの映画で学んだ」

アラン・ジョンソン監督は語る

「ルビッチ作品と違う重要な点は、ミュージカル・ナンバーの導入だ。はじめはもっとミュージカル風にするつもりだったが、かえって邪魔になると気づいた。これは脱出のサスペンス・コメディなので、ミュージカルの部分が多くなると印象が散漫になるので最少限にとどめたのは成功だったと思う。メルもアンも正規のダンサーではないが二人とも非常に音楽的センスがあるし素晴らしいスタイルを持っている。アンは予想以上に歌も踊りもみことだった。
この映画に出てくる風刺的なナンバーは、2つの世界大戦の間にベルハルト・ブレヒトによって普及されたヨーロッパのキャバレエ寸劇にルーツをたどることができる。政治がジョークの矢面に立っていた時代だ。例えばヒットラーを嘲笑しているナンバーなど、当時のものをそのまま生かしている。」

ホセ・ファーラーは語る

「ポーランド人でありながらナチに協力するシレッツキー教授は、自分のことしか念頭にない男だ。国も売れば母親も見捨てる。不幸なことに、この世の中にはこの種の人間があふれていたし、これからもそうだろう。この役作りは、リアリティの創造だった。こうしたコメディを成功させる鍵は、信じ難いようなことを信じさせることにある。」

チャールス・ターニングは語る

「ナチのエアハルト大佐役は難役だった。役をいい人間に見せすぎないように注意しなければいけないと思った。でないと観客に同情を寄せられてしまうからだ。脅迫的なナチの恐さを持ち、盲目的に命令に従う軍人の一面と、怒りっぽく、他人に責任をなすりつけるようなズルイ奴で、その複雑な性格を出すのに苦労した。」


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