「“Badlands”の監督、長年の沈黙を破る」
ジョン・ハートル(シアトル・タイムズ映画評論家)
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フィルムメーカーの中には、じっくりと時間をかけることを好む人が居る。
スタンリー・キューブリックの最後の作品は、1987年の 「フルメタル・ジャケット」だった。
1996年に「Eyes Wide Shut」の制作に乗り出すまで、彼は沈黙を守った。そして、1997年、ほぼま
る一年をかけて、英国で撮影を行なった。主演は、トム・クルーズとニコール・キッドマン。今年中に
は公開されるかもしれない。
しかし、テレンス・マリックの沈黙は、キューブリックよりも10年近く長いものだった。彼の新作ジェ
ームズ・ジョーンズの第二次世界大戦ノベルにもとづくオールスター大作「The Thin Red Line」が、
今年の終りに公開されると、それは、1978年以来のマリックの新作ということになる。
マリックは、1974年の「Badlands」で、監督デビューを果たした。これは、1950年代後半のチャー
ルズ・スタークウェザーとキャリル・アン・フュゲートの殺人事件にもとづいた作品で、全米映画台帳
の「重要なアメリカ作品」に登録されている。英国の批評家、ジェフ・アンドリューは、この作品を、
「最も輝かしい監督デビューの一つ」と評した。主役のマーチン・シーンとシシー・スペーシックも、
最高の演技を見せている。
マリックの2本目の作品、「Days of Heaven」は、1976年に撮影を終えたが、
彼はその後、編集に2年間を費やしている。映画は、リチャード・ギアやサム・シェパードのスターパ
ワーを最高に引き出し、上映される毎に映画賞を獲得した。マリック自身も、カンヌ映画祭を始めとし
て、ニューヨーク映画評論家協会、全米映画評論家協会から、最優秀監督賞を受賞した。ところが、そ
のあと、彼は、活動をぱったりと停止してしまったのである。
過去20年の間、マリックは、生まれ育ったテキサス州オースチンで隠遁同然の生活を送ってきた。イン
タビューにも、一切応じなかった。世間は、彼は一体何をしているのかと憶測するばかりだった。
一説によると、マリックがフィルムメーキングを止めてしまったのは、監督という仕事のプロセスその
ものが気に入らなかったからだそうである。(ジョージ・ルーカスも、同様の理由で、1977年の「ス
ターウォーズ」以来、昨年まで、監督業から遠ざかっていた。)また、彼は、日本の映画、「山椒太夫」
の舞台劇化など、他のプロジェクトに専念しようとしていただけだという説もある。いずれにしても、
彼が、こと映画制作に関する限り、「長い眠り」に入っていたことは確かだ。
このマリックの長い眠りは、ロバート・マイケル・ゲイザーとジョン・ロバーダウによって破られた。
二人は、1979年に映画演劇制作会社を設立して以来、ロバート・アルトマンの「ストリーマーズ 若
き兵士たちの物語」とデニス・ポッターの監督デビュー作品「Secret Friends」の2本の映画を制作し
た他、1985年には、舞台劇「Strange Interlude」のリバイバル上演も企画し、トニー賞にノミネー
トされている。
もう10年ほども前のことだ。彼等はマリックとの接触に成功し、何か映画を作る気にはなれなにものか
と説得した。彼等の熱意に打たれて、マリックが、興味のあるプロジェクトとして挙げたのは、モリエ
ールの「守銭奴」の現代版か、「The Thin Red Line」の再映画化の企画だった。
「The Thin Red Line」は、1964年に、キア・デュリアとジャック・ウォーデンの主演で映画化され
ている。(この映画は、批評家の間でも、一般観衆の間でも、余り評価されなかったが、キア・デュリ
アの演技を観たキューブリックは、彼の演技を評価し、「2001年 宇宙の旅」に抜擢した。)
「彼は、どちらかを選んでくれと言いました。」ゲイザーは語る。彼は、先日、ロバーダウと共に、
シアトルを訪れた。
「我々としては、“The Thin Red Line”の再映画化の方が面白いと思ったのです。」
そこで彼等は、1988年に、原作者ジョーンズの未亡人から、映画化権を買い取った。これを受けて、
マリックがTRLの脚本の執筆にとりかかったのは、翌1989年のことである。
今年54歳のマリックは、この、製作費5000万ドルの映画の撮影を、昨年、オーストラリアで行なった。
(ガダルカナルのシーンの撮影は、オーストラリアで行なわれている。)キャストには、ジョン・トラ
ボルタ、ショーン・ペン、ジョージ・クルーニー、ニック・ノルティ、ゲイリー・オルドマン、ウッディ
・ハレルソン、ジョン・キューザック、ビル・プルマン、ベン・チャプレン、ジョン・サベージ、ルー
カス・ハース等が含まれる。映像効果のリアルさを高め、観衆の知覚の無意識の領域にダイレクトに訴
えかけるために、撮影は、スーパーシャープ70mmプロセスで行われた。(因みに、「天国の日々」は、
当初、70mmで公開された。)
マリックの映画制作の能力について語るとき、二人のプロデューサーの口調は、感嘆の域を越えて、殆
ど崇拝しているかのような感じになる。
「“天国の日々”を観たとき、私は、完全に圧倒されました。」1978年に、公開前のこの作品を、パラ
マウントの試写室で観たときのことを回想しながら、ゲイザーは語る。
「あの映画には、削るべきところや付け加えるべきところは何も無い。完璧で純粋な創造のアートです。」
ロバーダウは語る。マリックは、今は亡きネスター・アルメンドロス(彼は、アカデミー賞を受賞した
優れたカメラマンである。)の撮影した華麗な映像に満足せず、自ら編集室にこもって、「天国の日々」
の独特な叙述的なスタイルを創り出した。リンダ・マンツのボイスオーバー(語り)を通して、子供の
視点から、恋愛の三角関係の物語を語らせる手法をとったのだ。
ゲイザーとロバーダウは、「Badlands」を、マリックのドストエフスキー映画、「天国の日々」を、ト
ルストイ映画と見なしている。しかし、「The Thin Red Line」は、どちらの作品とも異なるもののよ
うだ。ロバーダウによると、TRLは、「“Badlands”と同様、善悪の判断を下すようなことを全くしな
い作品」だそうである。ゲイザーは、TRLを、マリックの「イリアッド」だと観ている。
マリックの最近のプロジェクトは、彼の初期の作品に比べて、いずれも、人間の運命と犠牲の問題と取り
組む性格が強い。「山椒太夫」の女性の主人公は、弟を救うために自殺する。「The Thin Red Line」
では、兵士は、戦友を救うために自らを犠牲にする。この点で、映画TRLの物語は、ジョーンズの原作と
は大きく異なっている。
「ジョーンズの未亡人のグロリアさんが、脚本の草稿を読んだ後、これで良いと言ってくれたことで、マ
リックは、原作から大きく飛躍することについて自信を持ったようです。」ロバーダウは語る。「マリッ
ク自身の作品として、確信が持てるようにするためには、原作から飛躍することが必要だったのでしょう。」
今、マリックは、TRLの編集に取り組んでいる。この編集作業に、どれだけの時間がかかるのか、まだ不
明だ。また、TRLの次の作品はいつのなるのか、また、20年も待つことになるのか、これも全く不明だ。
「彼は、“山椒太夫”の方は、しばらく寝かせて、さらに熟成させる意向です。」
ゲイザーは語る。次ぎの映画は、多分、「The English-Speaker」になるが、制作を急ぐ気配は全くな
いそうである。「何しろ、“天国の日々”以前から、“The English‐Speaker」の構想を温め続けて
いるのですから。」